最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)2321号 決定 1951年3月30日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人伊勢勝蔵の上告趣意第一点乃至第三点について。
論旨は、いずれも、原判決の判例違反を主張するのであるが原判決が判例と相反する判断をしたことを理由として上告の申立をする場合には、上告趣意書にその判例を具体的に示さなければならないことは刑事訴訟規則二五三条の規定するところであるにかかわらず本趣意書における判例の記載は具体的に判例を示したものと云えない(第三点掲記の大審院判例も所論の月日に所論のごとき事件の判決は存在しない)のみならず、論旨は、第一審判決は或は任意性に疑ある供述調書を証拠とした違法あり、或はその任意性の取調べについて手続上違法あり、或は虚無の証拠を以て犯罪事実を認定した違法があるにかかわらず、原判決は、これを是認した等要するに第一審判決又は原判決の法令違反を主張するに帰するものであって、此等の点に関する原判決の明示若しくは黙示のいかなる判断が所論判例のいかなる点に抵触するかを具体的に主張するものということはできないのである。従って、かかる論旨は刑訴四〇五条所定の判例違反の主張としては、その要件を欠くものというの外はなく、結局、論旨はすべて適法な上告理由とならないものである。
同第四点について。
所論は、第一審判決が証拠としなかった検証調書等について、その証拠調に関する刑訴法上の違法を主張するに過ぎないのであって、是亦刑訴四〇五条の要件を充すものと認めることはできない。
同第五点について。
所論は、本件量刑の不当を主張するものであるが、かかる事由は上告の適法な理由とすることはできない。
被告人の上告趣意について。
論旨はただ抽象的に原判決の憲法違反、法令違反を主張するに過ぎないから適法な上告理由と認めない。
その他本件について、刑訴四一一条所定の事由があることも認められない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条により主文のとおり決定する。
右は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)